こんにちは。兵庫県明石市にある二天堂魚住鍼灸院の宮上智志です。今回は、五十肩について記事にします。五十肩とは、おおむね特に原因がはっきりしない中年以降におこる肩の痛みと運動制限をきたす症候群です。「五十肩」という言い方は医学専門用語ではありません。病院では「肩関節周囲炎」といったり、肩がガチガチになって動かない場合は「凍結肩」という病名を用います。五十肩の治療に、鍼灸施術は高い効果を発揮します。
五十肩(肩関節周囲炎)
肩関節の痛みとトラブルの発生源は、主に上腕二頭筋長頭腱、回旋筋腱板(ローテーターカフ)、肩峰下滑液包、肩関節包などに退行変性が起こります。腱板の炎症は肩峰下滑液包に波及し、癒着性滑液包炎に至ると関節拘縮を生じます。50歳前後の方に多くみられ、関節の加齢現象の一つとされています。 更年期の関節痛について、詳しくまとめたページもございます。「メノポハンドとは」の記事もぜひご覧ください。
鍼灸施術の方針
五十肩(肩関節周囲炎)は、進行のステージによって対応を変えて施術します。そして、鍼灸のみならず、普段の生活を含めて運動療法のアドバイスも必要です。また、頸部や肩の凝りを訴える場合には治療点に加えます。
施術に用いる経穴と筋肉(支配神経)
風池・・・僧帽筋・胸鎖乳突筋・頭板状筋・頭半棘筋(副神経・頸神経叢の枝・脊髄神経後枝)
天柱・・・僧帽筋・頭板状筋・頭半棘筋(副神経・頸神経叢の枝・脊髄神経後枝)
肩井・天髎・・・僧帽筋(副神経・頸神経叢の枝)
肩外兪・・・僧帽筋・肩甲挙筋(副神経・頸神経叢の枝・肩甲背神経)
附分・魄戸・膏肓・・・僧帽筋・菱形筋・腸肋筋(副神経・頸神経叢の枝・肩甲背神経・脊髄神経後枝)
臑会・・・三角筋・上腕三頭筋(腋窩神経・橈骨神経)
巨骨・秉風・・・僧帽筋・棘上筋(副神経・頸神経叢の枝・肩甲上神経)
天宗・・・棘下筋(肩甲上神経)
肩貞・・・三角筋・上腕三頭筋・大円筋・小円筋(腋窩神経・橈骨神経・肩甲下神経)
臑兪・・・三角筋・棘下筋(腋窩神経・肩甲上神経)
中府・・・大胸筋・小胸筋(内側外側胸筋神経)
肩髃・・・三角筋(腋窩神経)
参考資料:二天堂鍼灸院主催、ほのしん講座、五十肩の鍼治療
肩がよく痛みを発する理由
肩関節は、上腕骨、肩甲骨、鎖骨の3つの骨で支えられ、肩を大きく動かすために肩甲骨関節窩が小さい構造をしています。そのため、上腕骨頭のはまりが浅いのです。ですから 骨だけでは構造的に不安定なところを関節包や発達した腱板が強度を高めています。これは腱や腱鞘、滑膜などの骨・関節を覆う組織、ファシア(Fascia)がよく働く機構とも言えます。そのため肩関節は、他のどの関節よりもゆとり(自由度)があり、ダイナミックな動きを見せることができるのです。また肩関節の周囲には、関節可動域を見守り監視する組織も発達しています。肩関節が過剰な運動で脱臼しないように、また逆に運動性を失った関節面が接近して損傷しないように、炎症や痛みのシグナルで警笛を鳴らすセンサーがたくさん配備されています。ですから五十肩(肩関節周囲炎)などの肩関節の疾患では、非常に強い痛みが伴います。私たちは生活の中で上肢を非常によく使いますから、肩関節の炎症や損傷が起こりやすい傾向にあります。これは、私たちが進化の過程で直立二足歩行を獲得した代償とも言えます。そのことを踏まえて、上肢に鎖骨と肩甲骨を合わせた「上肢帯の領域」を、日頃からケアする必要があります。ファシアとセルフケアついて詳しくまとめたページもございます。ファシア(Fascia)とはの記事もぜひご覧ください。
五十肩(肩関節周囲炎)の主な症状は、肩の痛みと動かしにくさ(拘縮)です。じっとしているときの痛み(安静時痛)では、 腕を動かさない状態でもズキズキ肩や腕が痛む。 夜間寝ているとき、寝返りしたり肩を下にしたりすると痛みで目が覚めるなどです。動かす時の痛み(運動時痛)と動かしにくさ(拘縮)では、 高い所にある物をとろうとしたら腕が挙がらない。 上着を着たり脱いだりするのがつらい。 背中のファスナーを開け閉めしづらい。 整髪しにくいなどです。病期は大きく3段階に分けられ、症状が徐々に変化していきます。6か月から24か月で治癒すると言いますが、日常生活に支障のない程度の機能障害が残る例も少なくありません。
まとめ
最近では、五十肩の新しい治療法として「サイレント・マニピュレーション」という技術も普及しています。これは肩に麻酔をして動かすことにより、縮んでしまった関節包を剥がし、肩の動きを改善する治療法です。癒着したり、縮んで硬くなった関節包を剥がすわけですから荒療治の部類になると思います。私の知人もこの治療法で、劇的によくなった話を聞かせてくれました。実際の施術の動画を見せてくれましたが、「コキコキ」と音を立てながら癒着や拘縮している組織を剥がす施術は本来なら耐え難い激痛を伴うものです。ダメージを伴う療法になりますが、自己修復力と医院でのリハビリテーションで元に戻るそうです。
当院では、鍼灸治療の施術で症状の改善を図ります。患部に対する鍼施術は、ミクロのメスを入れるようなものです。これもダメージを伴う療法になりますが、必要最小限の機械的刺激で治療点にアプローチすることができます。また、同時に頚・肩・背中と広範囲に施術して、各部のつながりや筋肉の支配神経を刺激することで身体全体のバランスを整えます。一度の施術で劇的回復を図るダイナミックな効果は果たせませんが、患者さんの手ごたえを毎回確認しながら少しずつ治療していきます。患者さんの固有感覚と鍼灸師の施術感覚をシンクロさせる作業が、不調の原因の解消に必要なペース配分で、刺激量も適度な匙加減になるように共同してできると何よりよいです。また治療に関わる過程で、患者さんご自身が自分にあったセルフケアの方法をみつけるお手伝いができれば幸いです。