Blog「第2の骨格」ファシア(Fascia)について

2024-12-05

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「第2の骨格」ファシア(Fascia)について

みなさんこんにちは、二天堂魚住鍼灸院の宮上智志です。みなさんは、人体を構成する組織に「ファシア(Fascia)」と呼ばれるものがあるのをご存じでしょうか?近年の研究で、ファシアこそが体を滑らかに動かすうえで重要な役割を果たしていることがわかってきたのです。人体の新たなネットワークの研究も盛んなファシアについて、東洋医学も交えて記事にします。

ファシア(Fascia)とは

ファシアとは、「膜」のことであり語源となったラテン語では、「包むもの」や「包帯」などという意味があります。臓器、骨、筋肉、脂肪、靭帯、血管、神経などを覆う線維性の網目状組織です。ファシアは身体の組織同士を分割し、かつ連結させています。ファシアが体を滑らかに動かしたり、支えたりしているおかげで、私たちの身体はいろいろな動きをすることが出来るのです。

「人体最大の組織」

ファシアは、コラーゲンとエラスチンといった繊維質のタンパク質と水分とできており、網目状の構造をしています。これにより、互いに引っ張り合って張力を保ち、様々な方向へ縮んだり伸びたりしてバランスを保ち安定させています。この張力のバランスが崩れてくると姿勢や骨格の崩れにつながります。全身に張り巡らされて体の組織を支えていることから、「第2の骨格」とも呼ばれます。NHKでも盛んに「人体最大の組織」として、取り上げています。

健康問題との関係性

では、なぜ今ファシアが取り上げられるのでしょうか?それは、現代人が抱える健康問題にファシアが深く関係していることがわかってきたからです。ファシアが運動性を失うとコリや痛みを感じて、慢性的な肩こりや腰痛の原因となることもあります。全身を覆う組織ですから一部が何らかの原因で硬くなったりすると、つながりを通してほかの部位を引っ張り、全身のバランスが崩れ、一見関係のないようなところにも痛みや可動域の制限が出ます。特に肩甲骨につながる筋肉のファシアは「伸縮性」が失われて癒着しやすいため、頑固な肩こりに悩まされている人が多いのです。

ファシアのセンサーとして役割

筋膜の中にはたくさんのセンサーがあります。それらは、筋肉の伸び縮みに対する感覚や圧力を感知します。それらの情報が脳に伝わり、身体の位置を調整することができます。しかし、筋膜にストレスがかかり硬くなってしまうと、感知器の働きが弱くなります。これにより身体を上手くコントロールするのが難しくなります。

ファシア(筋膜)の癒着

ファシアが凝集して高密度化することで、異なる組織や臓器同士がくっつくことです。ファシアの癒着が起こると、組織の伸張性や滑走性が低下します。ファシアの癒着の原因としては、次のようなことが挙げられます。

  • 長時間の同じ姿勢
  • 猫背などの不良姿勢
  • 水分の枯渇
  • 筋肉の柔軟性の低下
  • 運動不足
  • ケガや炎症
  • 精神的ストレス

ファシアの癒着によって、ファシアに分布する侵害受容器が過敏になり、トリガーポイント(発痛点)を形成します。トリガーポイントは、しこりとして痛みを感じる場合や、痛みを感じる場所としこりのある場所が異なる場合(関連痛)があります。ストレスと身体のつながりについても詳しくまとめたページもございます。健康を支えるホメオスタシスとアロスタシスの関係の記事もぜひご覧ください。

東洋医学が示している滋潤(じじゅん)と潤滑

東洋医学が定義する生命活動に関わる基礎的な物質というものがあります。そのうちの一つが津液(しんえき)です。津液とは、体内における正常な水液の総称。気(き)や血(けつ)とともに人体を構成し、生命を維持します。不足しても過剰でも、不調の原因になります。

  • 「津」は、サラサラとして動きやすい性質を持ったもの・・・涙・汗・唾など
  • 「液」は、ネバネバとして流動性が低い性質を持ったもの・・・関節・臓腑・脳などに注ぎ、滋潤(じじゅん)や潤滑の役割を担う。                                     

                         ※滋潤(じじゅん):液体によって潤すこと

どうでしょうか?津液が持つ滋潤(じじゅん)や潤滑の性質は、ファシアが含む水分や滑走性に酷似しています。古代の人たちは、東洋医学的に病態を把握する過程で、生理観や病理観を培ってきました。それらが長い時間を経て現代医学の最前線と重なりを見せているようではありませんか。全身に分布する経絡(けいらく)の一つに「手の少陽三焦経」と呼ばれるものがあります。これは、水の通路とも言われていて、津液と関係が深い経穴(けいけつ)ツボが多くあります。古代の人々も全身に張り巡らされたファシアの重要性に着目していたと考えるのは、飛躍しすぎでしょうか?東洋医学の理論では、人と自然・環境などとの調和と統一性を重視し、身体全体がひとつのつながりを持った有機体であるとという見方があります。この全身のつながりこそが、まだ明らかになっていない人体の仕組みを解き明かするヒントになるのではないでしょうか。

参考書籍 編者名.公益社団法人東洋療法学校協会 著者名.教科書検討小委員会 「新版 東洋医学概論」 発行所,医道の日本社,出版2019年

まとめ

私が臨床で何度も診てきた症状の一つが、患者さんの“身体の癖”です。これを、「正しましょう。」と言ってしまうのは簡単なことですが、それぞれに生活の背景がありますから、事情を考慮する必要があります。例えば、長距離トラックの運転手、理容・理髪業、スポーツ関係、建設業、製造業、保育・介護、料理人など、患者さんの顔が症例と共に浮かんできます。日常の身体使いがお仕事などの性質の影響を色濃く受けるため、職業柄避けられない問題になっています。ですから医療や施術を必要としている方は、医院で診断を受ける数の何倍も世の中にいるということです。特に年齢が高くなるにつれて、老化現象も相まって非常に強固な“身体の癖”になっています。これを打破することは、むしろ今ある状態を壊すことになります。簡単なことではありませんし、いいことばかりではありません。無理は禁物です。鍼灸治療は、癒着したファシアに対して直接アプローチができる最も積極的な施術方法です。また、身体の反射を利用して、全身性の作用を誘導することができます。ですから失われている患部の運動性や可動域を改善する効果が非常に高いです。しかし、根本治療となると、まだ足りません。そこで、私がお勧めするのが、“身体を守るための何かを見つけること”です。難しいことではありません。具体的には、ラジオ体操もいいと思っています。身体の各部を動かす効果的な運動であり、筋トレではないので続けやすいです。椅子に座って行うこともできますし、寝そべって行う運動もいいでしょう。その他にもヨガ、ピラティス、ストレッチ、太極拳などいろいろと手段があると思いますが、目的は“身体を守るため”と言うことを忘れないで下さい。お仕事や生活様式、老化による影響は、無くすことはできません。しかし、身体を守るために調整する行動はできます。ファシアのセンサーとして役割は、ご自身の感覚で養うことができます。全身のつながりを意識して可能な限りあらゆる方向、角度に運動を作用させましょう。そうすれば、自動的に呼吸が変化し血が巡ります。司令塔の脳(あたも)も呼応して内臓も動き出します。“身体を守るための何か”を通して、身近にある身体の癖を遠ざけるようにしましょう。

私は、自動車のエンジンオイルを交換したときは、愛車に対してとてもいいことをしてあげられたといつも思います。高速で動力を生み出すマシンも潤滑油がドロドロだと各部が摩耗して焼き付いてしまいます。それは、ブレーキや車輪でも同じです。運動性能を維持するためには欠かせないメンテナンスです。ですから患者さんに説明するときも「全身に潤滑油を巡らせるイメージ」は、有効だと思っています。人生100年時代とも言われますが、私たちの身体は機械のようにパーツ交換はできません。上手に長持ちさせる手入れが必要です。“身体を守る何か”は、手段としての運動以外にも非常に多岐にわたります。人の暮らしや人生観にまで発展する壮大なテーマです。読書や音楽鑑賞、食事も人に潤いをもたらす優れた効果があります。長文になってしまいました。今回はここまでにしたいと思います。

本院は、神戸市の二天堂鍼灸院中野保先生の元で、しっかりと効かせる鍼灸施術の技術を学び、取り入れております。肩こり・腰痛はもちろん、不定愁訴(原因を特定できないカラダの不調)、身体に関するお悩みなんでもご相談ください。明石市において皆様に頼りにされる「かかりつけの鍼灸師」を目指して、日々研鑽に励んでおります。明石市で鍼灸院をお探しなら二天堂魚住鍼灸院へぜひお越しください。

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