Blog「患者の感覚に耳を澄ませる」臨床でのコミュニケーション術

2024-12-20

  • 東洋医学
  • 鍼灸
患者の感覚に耳を澄ませる。臨床でのコミュニケーション術

みなさんこんにちは。二天堂魚住鍼灸院の宮上智志です。歳末の時節柄何かと気忙しい毎日ですが、健康には十分にご留意ください。今回は、臨床で交わしている鍼灸師と患者のやり取りについて記事にしたいと思います。この施術中のコミュニケーションが治療効果を決めるといっても過言ではありません。あらゆる施術に不可欠な共同作業ですので、患者さんにも治療中に起こる身体反応を理解していただく機会になればよいと思います。

鍼灸師の技 刺鍼術

単刺術(たんし)

鍼を目的とする深度に達したらすぐに、抜いてしまう手技。極めて軽い刺激が目的の場合に用いる。

雀啄術(じやくたく)

鍼を刺入するとき、また目的とする深度に達したら雀(すずめ)が啄(ついば)むように、上下に進退させる手技。強刺激にも弱刺激にもなる。

旋撚術(せんねん)

鍼を刺入時または抜くときに左右に半回転ずつ交互にひねりながら行う手技。

置鍼術(ちしん)

置鍼術とは、鍼を刺してそのまましばらくの間置いておく方法です。鍼が刺さっている間は筋肉が収縮と弛緩を繰り返し血液循環が良くなるため、置鍼時間が長いほど筋肉が緩みます。患部の疼痛(とうつう)に対しても、神経の興奮を鎮め痛みを緩和する効果があります。当院では、基本15~20分置鍼します。慢性疾患や難治性の疼痛、けいれんなどの症状の場合はさらに長くする場合があります。

軸索反射(じくさくはんしゃ)

鍼を刺入する手技は、炎症などを感知する受容器に伝わります。そして、知覚神経から脊髄へ伝わり脳へ送られます。しかし、その刺激は手前で枝分かれしている神経線維にも及ぶため、鍼をした患部に対して即座に反応が起こります。この逆行性興奮のことを軸索反射と言います。軸索とは、神経細胞(ニューロン)の長い突起部分のことで、神経の興奮を伝える役目をします。

具体的には、知覚神経から「サブスタンスP」と「CGRP」という化学物質が放出されます。

  • CGRP・・・血管を拡張し血液循環をよくする
  • サブスタンスP・・・組織間の水分や栄養の移動・交換を円滑にしたり、抗体を作るリンパ球を増加させるはたらきがある

鍼をしたところに即座に起こる神経の興奮なので、脊髄や脳などの反射中枢を介することなく瞬く間に反応が表れます。

局所単収縮反応

鍼を患部に刺入するとピクンと筋肉が跳ねることがあります。この現象は「局所単収縮反応」と呼ばれ、筋肉の凝りが強く硬くなっている部分に鍼が到達したとき一瞬起こる現象です。 この反応が起きれば硬くなった筋肉が緩みやすく、スッキリしやすくなります。

「響き」・「得気」のある鍼

硬くなった筋肉に鍼が刺さると「ズシーン」「ズーン」といった感覚があります。この鍼を刺されたことによる感覚のことを専門的には「響き」と言います。この「響き」は非常に重要な感覚で、鍼が効いているということです。また、治療家によって区別している方もありますが、患部に起こるズンとした特有の感覚のことを「得気(とっき)」と言ったりもします。どちらも慣れればきっとリラックスして施術を受けられます。

ファシア(Fascia)にも痛覚がある

ファシアとは、臓器、骨、筋肉、脂肪、靭帯、血管、神経などを覆う線維性の網目状組織です。このファシアにも痛覚があることがわかっています。病院で注射した経験がある方は、血管に注射針が刺さったときのチクッとした痛みを覚えていると思います。また、骨折でも痛みがあります。これは骨そのものではなく骨を包み栄養しているたくさんの組織(ファシア)が障害されたことに伴う痛みです。鍼施術は、手術以外の方法で体内に直接物理的な刺激を送ることができる最も積極的な治療です。ですから人体に張り巡らされたファシアにも干渉します。血管や筋膜、骨膜由来のチクッとした痛み感覚です。鍼治療に使用する鍼は、非常に細いですから痛み感覚を必要最小限に留めることができます。

筋硬結(きんこうけつ)とは

血液とリンパ液の循環不良で疲労物質が蓄積し、筋肉内部の筋繊維が持続的に収縮した部分です。 力を抜いてもこの部分の筋繊維が伸びず周りの筋肉と比較してコリコリした感触があるのが特徴です。 運動不足や天候の変化、心因的なもの、眼精疲労、服装、姿勢も原因になることがあります。

遠赤外線治療の効果

遠赤外線治療の効果は、血液循環やリンパの流れがよくなることや、老廃物の排泄、代謝の改善などがあります。これらの効果は、自律神経の調整、免疫力の強化にもつながり疲労回復を後押しします。身体に熱がしっかりと伝わり、痛みの症状を緩和することも期待できます。

低周波鍼通電刺激

置鍼術した鍼を電極として利用し、低周波電気刺激を行い、整形外科系疾患や内科系疾患の治療として応用します。目標する生体反応に応じて周波数を選択します。

  • 1~10Hz(ヘルツ):血管拡張・鎮痛・鎮静
  • 30~100Hz(ヘルツ):消炎・血管収縮・興奮作用

低周波鍼通電療法

①筋パルス 

  • 症状の主体が筋肉などの軟部組織の場合 【筋炎・急性炎症・筋力維持など】

②神経パルス 

  • 鍼鎮痛における疼痛(とうつう)閾値の上昇を根拠とした場合
  • 神経根から末梢の神経障害に用いる 【神経根・椎間関節炎・圧迫骨折など】
  • 目標神経の近傍に通電し、神経線維を刺激する 

③椎間関節パルス 

  • 頸椎、腰椎の椎間関節性疼痛に用いる【椎間関節障害・椎間関節部の軟部組織】

④皮下パルス 

  • 皮下組織に病態がある場合 【アトピー性皮膚炎・蕁麻疹・湿疹】

⑤反応点パルス 

  • 内臓疾患に対して、体性-内臓反射を利用 【内臓疾患に伴う症状】
  • 交感神経抑制 1Hz(ヘルツ)   交感神経興奮 30Hz(ヘルツ)
  • 副交感神経抑制 30Hz(ヘルツ) 副交感神経興奮 1Hz(ヘルツ)

ゆっくりと身体反応を引き出す

置鍼術では、時間の経過とともに患者さんの身体は反応を見せてきます。その過程で、遠赤外線治療器の熱を強く感じるようになったり、低周波鍼通電療法の刺激がきつくなってくるなど、状態の変化があります。当院では、患者さんの手元にいつでも押せる「呼び出しベル」のスイッチを置いております。

鍼灸の施術に交える手技について詳しくまとめたページもございます。鍼灸に交える「ソフトな手技」の記事もぜひご覧ください。

電子カルテとネット予約の一体化

当院は、セイリンの電子カルテを導入しております。毎回の施術内容を写真撮影して記録に残します。次回の治療では、必ずその内容を振り返りながら患者さんに術後の経過を確認し、その日の施術に反映させます。電子カルテは、ネット予約のシステムともつながっておりますので、円滑に準備ができるようになっています。当院は、電話予約を受付けしておりますが、ネット予約もございます。こちらは24時間受付できますので、よろしければどうぞ。

資料:「つながる」がカタチに.鍼灸つながるプラットフォーム.Program01.電子カルテ 

まとめ

鍼灸院に来る患者さんは、どこに行ってもよくならない。何とかしたい身体のことで悩みを抱えています。ですから鍼灸治療を受け入れる希望と覚悟があります。施術する側もそれに応える覚悟と使命感が必要です。特に初診の方からは問診での聞き取りを丁寧行ったうえで、触診で患部の状態を確認します。二天堂魚住鍼灸院では、患部にしっかり効かせる深鍼をしますからズシ~ンと重い響き感があります。鍼を操作する手技も雀啄術や旋撚術などを駆使して、軸索反射などの生体の反応を喚起します。また、ときには組織と骨の付着部にも鍼を送り込みますので、骨膜性の感覚刺激も発生します。このような場合は、あらかじめ患者さんに「ちょっときつく感じるかもしれないよ」と言って予告をします。その都度、患者さんの反応を聞きながら最も効果が期待できる治療点を目指していきます。施術中に「あーそこの鍼効くわぁー」とか、「響いてる」「ピリッときた」など、患者さんが発する情報は重要な手掛かりになります。ですから患者さんが、「響き」や「得気」(とっき)による刺激感覚を「痛い」ですと表現すると、鍼灸師は「不快な痛み」なのか「効果が出ている反応」なのかわからなくなります。今回の記事を参考にしていただければ幸いです。しかし、そうは言っても筋硬結(きんこうけつ)などに鍼すると、刺激も強いので痛いと言うこともあるでしょう。鍼灸師もここが治療の要でと承知していますから励ましたり慰めたりと声をかけたりします。私たちは、日常的に痛みにいい印象は抱きません。ですが治療に来ている患者さんは、不調の原因にヒットしたことを体感を持って理解することにもつながります。鍼の刺激は、ゆくゆくは脳にも伝わりますが、精神的にも自身を苦しめている患部にようやくメスが入ったような達成感が得られたりします。

鍼灸の施術は、鍼灸師から患者への一方通行のイメージが強いですが、実際は患者からの感覚情報や具体的な説明がなければ成り立ちません。患者さんは、具体的に日頃痛みを感じる場所を指で刺したり、手の届かないところは誰かに印を入れもらったりしてきて積極的です。この意気込みが治療家の意欲を後押ししますからお互いが協力し合って不調の原因に向かっていくことができます。また、趣味の話や何気ない出来事の会話を交わすことで、お互いがリラックスして施術に臨むことができます。横になって日頃の疲れをとる場所でもありますから、落ち着いた雰囲気を大切にしたいものです。完全予約制は、そうした環境を実現するためにも欠かせないのです。

難治性の腰痛や下肢のしびれなどには神経パルスなども行いますが、熟練の鍼灸師でも一発で神経の走行に作用させるのは至難の業です。腰椎の神経根付近から末梢の障害部位を刺激しますが、即座に患者さんの反応で成否がわかります。二天堂式の鍼灸治療は、「治療が診断を兼ねる」というのが師匠の教えですが、鍼灸治療の優れた効果を表しているとてもいい表現です。患者さんから頼りされる鍼灸院は、このような関係のもとで困難な治療であっても積極的にアプローチしているのではないでしょうか。

二天堂魚住鍼灸院