こんにちは。二天堂魚住鍼灸院の宮上智志です。今回は、慢性前立腺炎について記事を書きます。前立腺の病気は、中年以降の男性に発症しやすい前立腺肥大や前立腺がんがよく知られています。しかし、慢性前立腺炎は、若い方から高齢者まで様々な世代でみられます。医院で慢性前立腺炎の診断を受けた患者さんが、当院の鍼灸治療を受けて症状が消失あるいは緩和するケースがあります。決して前立腺そのものに、鍼をしているわけではありません。「鍼が適応する慢性前立腺炎の正体とは何なのか。」、二天堂直伝の鍼灸治療の考察を書きます。
慢性前立腺炎

前立腺に炎症がおこる原因は、まだはっきりしないようです。 細菌感染が原因の場合もあれば、感染がなくても慢性前立腺炎を起こすことがあると言います。前立腺炎の症状は、排尿時の痛みや焼けつくような感覚です。その他、排尿の回数の増加と急な尿意、陰嚢と肛門の間の部分や腰、陰茎、精巣の痛み、勃起や射精に関する問題、便秘や排便時痛など様々です。
慢性骨盤痛症候群
慢性前立腺炎について調べていると、慢性骨盤痛症候群という診断名が併記されています。「下腹部より下に起きる様々な症状の総称で、骨盤内の慢性炎症による慢性痛」ですが、慢性前立腺炎もそのうちの一つということになります。骨盤の痛みや違和感が半年以上続く状態を指し、膀胱炎や婦人科などの明らかな原因がない場合でも発症します。
鍼の刺激が導く慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)の正体
鍼灸治療で、腰痛や坐骨神経痛の方を治療していると、鍼の刺激が鼠径部に走った。あるいは太ももの後ろの方に感じたなど様々な反応が返ってきます。これは、過緊張などで硬くなった患部にアプローチすることで、絞扼されていた陰部神経や後大腿皮神経に刺激が伝わったことを意味します。このように鍼の施術は、どこに効いているか瞬時に反応が現れるので、「治療が診断を兼ねる」などと形容されることがあります。原因がよくわからないことで、慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)の診断を受けている方も実は、陰部神経由来の症状が含まれている場合があるのです。陰部神経は、仙骨神経叢の枝の一つです。第2~4仙骨孔から分枝したものが結合して、梨状筋下孔から出て小坐骨孔をくぐり陰部神経管を通過します。
- 上殿神経・・・中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋
- 下殿神経・・・大殿筋
- 後大腿皮神経・・・臀部下縁・大腿後面・膝窩
- 坐骨神経・・・神経・総腓骨神経に分枝して下肢の筋に分布
- 陰部神経・・・肛門・陰嚢・陰唇後部・陰茎・陰核
- 特定の筋を支配する神経・・・梨状筋・臀部外旋六筋
参考資料:著者名.原田晃.お茶の水はりきゅう専門学校専任教員.「神経インパクト」発行者.戸部慎一郎.発行所.株式会社医道の日本社.出版2019年7月31日.P114
鍼灸治療の方針
当院では、慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)に梨状筋刺鍼を行います。梨状筋は坐骨神経が下肢へと延びる骨盤出口の部分に付いています。この筋肉が硬化することで、坐骨神経を絞扼したり、圧迫したり、牽引したりする場合があり、その結果、神経痛が起きているものを梨状筋症候群といいます。梨状筋症候群の場合、梨状筋へ刺鍼すると坐骨神経に刺激が放散します。足先のあたりまでビリビリっと電気が走る感じです。しかし時折、陰部に刺激が放散する場合もあります。これは坐骨神経に近在する陰部神経に刺激が入ったときです。つまり梨状筋は坐骨神経だけでなく陰部神経の刺激要因にもなると考え応用したのが当院の治療法です。 陰部神経をターゲットにした梨状筋刺鍼は、3寸の長い鍼を使って大坐骨孔へ進めていくイメージで行います。陰部神経については、坐骨神経点より少し仙骨へ寄せて刺入すると捉えやすいです。梨状筋が固くなっている患者さんで、症状のあるところ(会陰部、陰茎、陰嚢など)へ刺激が放散するようであれば、梨状筋症候群による陰部神経痛の可能性が高いです。この反応が得られたポイントで、置鍼(ちしん)して鍼通電刺激を加え、神経パルス(1Hz/20分)を行います。
まとめ
慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)は、泌尿器科の診療対象です。細菌の感染がはっきりしている場合は、抗生剤の治療などで回復することが期待できます。しかし、冒頭で記述した通り、その原因はまだはっきりしていません。細菌の感染がなくても難治性の陰部の症状ということで、慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)の診断となるのです。しかし、当院では患者さんの症状が陰部神経に起因するものである可能性を考慮して、梨状筋症候群あるいは坐骨神経をターゲットにした治療を行います。これは整形外科が扱う疾患の領域ですが、整形外科を受診しても陰部の痛みは泌尿器科をすすめられるでしょう。原因がよくわからない慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)のすべてに、鍼灸治療が適応するとは言えません。しかし、慢性骨盤痛症候群では、便秘や排便時痛の報告があったり、足の痛み・足の裏の痛みや痺れ・お尻の痛みなども症状も含まれます。これらは、陰部神経から分枝する下直腸神経の領域や下肢につながる坐骨神経の症状を連想させます。男性に限らず原因不明の症状から何人かの患者さんを救うことができる可能性があります。結論として、鍼が効くタイプの慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)はあります。梨状筋症候群による陰部神経痛なら3回も治療すれば必ず症状が軽減します。早い方なら1回目の治療で効果を実感してもらえます。1回目が無反応でも2回目から変化する場合もあります。根気強く3回くらいはチャレンジしてほしいと思います。ただし、変化が現れない場合は残念ながら適応外と判断します。慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)でお困りの人はご相談ください。