こんにちは。二天堂魚住鍼灸院の宮上智志です。これまでの一連の記事では、姿勢の癖とファシア(Fascia)について取り上げてきました。今回は、姿勢を保持するためにはたらく筋肉について記事にします。
姿勢保持筋(抗重力筋)とは
姿勢保持筋(抗重力筋)とは、地球の重力に対して姿勢を保持するためにはたらく筋肉のことです。私たちが何気なく行っている「直立」や「歩行」は、こうした筋肉が骨格を支え運動するおかげで成立しています。また、「座っている」ときは休んでいるようですが、やはり上半身を起こして支える運動をしています。ですから、姿勢を保持する筋肉が安静にできるのは「横になる」とき、すなわち「寝る」ときだけということになります。
主な姿勢保持筋(抗重力筋)
- 背中:脊柱起立筋、広背筋
- 腹筋:腹直筋、腸腰筋
- お尻:大臀筋
- 太もも:大腿四頭筋
- ふくらはぎ:下腿三頭筋
これらの筋肉は、身体の前後に張り巡らされ、前側の筋肉と背中側の筋肉が互いに伸び縮みをしながらバランスを取っています。立っているだけ、座っているだけでも常に姿勢保持筋のどれかが働いています。姿勢保持筋を鍛えるには、スクワットやウォーキングなどのトレーニングが効果的です。また、日常から活動的な生活を送ることも大切です。
筋肉の性質と運動の関係
筋肉は、縮むときにパワーが生まれます。ですから小刻みに縮む筋肉の運動では、連続するスピード系の身体動作ができます。また、縮んだ筋肉のパワーをできるだけ長く把持しながら利用することで、非常に重たい物を運んだり担いだりする力量ある身体動作も可能です。いずれにしても、筋肉の細かな繊維が柔軟に作用することで正常に機能することができます。ところが筋肉は、使わないと縮んで硬くなる性質があります。この状態が長引くと、筋肉は萎縮してしまうので関節の可動域が狭くなります。筋肉とその周辺組織には、酸素や栄養素を運搬する血管が発達していますがこれらも筋萎縮と共に血流が悪くなります。そして、萎縮した筋肉は血管も圧迫するようになるので末端の毛細血管は眠ったようになっていきます。このような悪循環に陥ると筋肉の柔軟性を回復させるのは簡単ではありません。また、人は誰でも高齢になると筋肉量が低下します。 加齢による筋力低下の本質は、この筋肉の萎縮によるもので、廃用性筋萎縮症、英語でサルコペニア(Sarcopenia)といいます。これまで、ファシア(Fascia)との関係を中心に記事にしてきましたが、廃用性筋萎縮症を予防する観点からも適度な運動が大切であることをお伝えします。人体を構成するファシア(Fascia)についても詳しくまとめたページもございます。ファシア(Fascia)とはの記事もぜひご覧ください。
まとめ
私が姿勢保持筋(抗重力筋)について意識したのは、関西運動器障害研究会(Kansai Athletics Training Association)主催のKATA講習会に参加したことがきっかけです。関節・筋運動学の講座では、理学療法士である上田陽之先生が3回に渡り登壇しました。身体の骨格と筋肉について、研究されてきた理論を実技も交えてわかりやすく解説していただきました。その中で、「身体の緊張を解くための裏技」として、紹介された手技があります。それは、「体幹内操法」という身体操作のテクニックでした。患者に対して、強い力を加えることもありませんし、ストレッチをするわけでもありません。まるで魔法をかけるような要領で、患者さんが気づいていない身体全体の硬さを解いていき、関節の可動域も変化させています。上田先生は、このように言われました。「高齢でリハビリ室に通っている方の一部は、脊柱起立筋が硬くなっていて、横になっても弛緩することなく緊張したままになっている。立ったまま寝ているようなものなので寝ても疲れが取れない。まずこれを緩めないといけない。いきなりストレッチなどしても体に対する負担が大きく、効果も低い。これを言うから若い理学療法士に煙たがられる。」
私は、早速勤めていた鍼灸整骨院で、教わったことを患者さんに試してみました。結果は、驚くべきものでした。ある患者さんは、「施術を受けた晩は、何年かぶりに朝までぐっすり眠れた。」と喜んでいます。また、側弯がある患者さんは、施術により「何とも言えない解放感があり、とても気持ちがいい」と毎回リクエストされます。そして、この反応は高齢者に限ったことではありませんでした。若い方でもお仕事や家事に追われる日々の中で、心身共に「緊張モード」が染みついて離れません。このようなときも、そっと魔法の手技を加えると、身体の緊張が緩み何とも言えない楽になった感覚を自覚しているようです。これらの臨床経験は、今後の治療に生かされる財産になっていますから主催団体にも大変感謝しています。それからは、体幹内操法の資料を集めて理論と実践の方法を分析していきました。今回の記事では身体を緩める体操について、ストレッチやヨガ、ピラティスについて取り上げる予定でした。しかし、整体も含めて健康に寄与する体操や施術は、豊富に情報があり、各分野の専門家も多く活躍しています。ですから私は実際に施術で取り入れている脊柱周辺の筋緊張の弛緩について記事にしました。当院に来られた患者さんにも有効な施術になることを期待しています。